SSブログ

枯葉の髪飾りⅢ [枯葉の髪飾り 1 創作]

「こがんところで、なんしてると?」
 吉岡佳世がそう聞きながら拙生の横に腰を下ろします。
「いや、昼寝」
「暑かやろうに」
「そうでもなか。気持ちよか」
「学校の補習授業のあるとじゃないと?」
「二時までね」
 拙生がそう云うと彼女は腕時計に目を落とします。
「じゃあもう終わって、それでここで一休みしとったと?」
「まあ、そう。そこの病院の帰り、実は」
「病院に通いよっと?」
「うん、まあ」
「なんの病気?」
「心臓。そがん大した病気じゃなかとやけど」
「心臓かぁ。あたしと同じね」
 吉岡佳世がそう云って少し笑ったのは、云うまでもなく拙生の病気を笑ったのではなくて、拙生が自分と同じ病気であることに、ある種の同志的な共感をもったからに他ならない故でありましょう。
「お前の病気の方はどがんや? 七月はほとんど学校に姿ば見せんやったけど」
 拙生は彼女にそう聞き返します。
「七月はあんまい体調の良くなかったけど、今は大分良うなったみたい」
 彼女はそう云うと拙生から目を逸らして空を見上げるのでありました。少し突き出た唇と、そこから延びる顎から喉にかけての細くて手弱やかな曲線が、拙生の目がそこに釘づけられることを拒むように一回ひくりと動くのでありました。
「お前の通っとる病院もここか?」
 拙生は彼女の頭の後ろに赤いゴム輪で束ねられた髪の先端が、三日月のようにぴょんと上に跳ね上がっている辺りを見ながら云うのでした。
「そう。もうずっと子供の時から。何度か入院したこともあるし」
「へえ、そうか」
 拙生はそう云った後一呼吸置いて尋ねます。「今までなんとなく聞きそびれとったけど、つまりどう云う病気や、そのお前の病気って?」
「心房中隔欠損症。知ってる?」
「いや、全々」
「心臓の右の部屋と左の部屋の間にある壁に穴の開いている病気」
 そう云われても心臓病の知識をほとんど持っていない拙生には、まったくぴんとこない病名でありました。
(続)
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

枯葉の髪飾りⅡ枯葉の髪飾りⅣ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。