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世田谷の端っこでⅠ [散歩、旅行など 雑文]

 大学進学のため東京に出て来て、最初に住んだのは世田谷の上祖師谷四丁目でありました。東京に住んでいる叔母がアパートをやっていて、そこに転がりこんだのであります。まったくの住宅地であり、近くに商店もなく、栗林やキャベツ畑もあって結構田舎の風情が残っておりました。この辺りは水洗トイレもまだ全面的に普及していなかったのであります。こりゃあ見様によっては佐世保より鄙びているかなと云うのが、住みはじめた頃の最初の印象でありました。小田急線の成城学園前駅と京王線の仙川駅の丁度中間辺りでありました。近くのバス通りの向こう側はもう調布市であります。最寄りのバス停と云えば中央電通学園裏でありましたが、電通学園とは今のNTT東日本研修センターであります。
 アパートを出て畑や空地や住宅の連なる細い道を歩いてバス停に出ると、節約と趣味を兼ねて当然バスには乗らず、拙生は徒歩でバス通りを成城学園前駅の方へ南下するのであります。程なく、もう今はなくなってしまいましたが、俳優の三船敏郎さんがやっていた三船プロが左手に見えてきます。ここには時代劇のセットが組まれていて、セットの中はなんとなく誰でも出入り自由でありました。時々町娘姿の女優さんと浪人姿の俳優さんが、側のベンチで弁当を使っているのを目にすることが出来ました。友人やら佐世保の親類知人が拙生宅に訪ねて来たら、よくここへ案内などしておりました。佐世保に住む従兄弟がミーハーなヤツで、三船プロに連れて行くと興奮して一日中、セットの中を走り回っていたり近くに散在する有名人の家などを覗きに行ったりで、あちら此方東京見物に連れて回る手間もないので、拙生としてはまことに勝手ながら三船プロとは有難い近所づきあいをさせてもらっておりました。
 バス通りを避けて道を雷形に折れて住宅街の中に入ると、車の喧騒もなく静かな散歩となるのでありますが、この辺りはもう成城のお屋敷街で、広い敷地に瀟洒な、或いは贅を尽くした、また奇抜な住宅が方形の区画にゆったりと並んでおります。貧乏学生の拙生もなんとなく裕福そうな心持になって、歩調も緩く塀や垣根越しにのぞく庭木の枝振りに目を止めたりしながら、まるでこの辺に住まっている人間のような顔してやや顎を上げて歩くのでありました。お屋敷街にある桜の並木は、これはもう見事で、花頃には桜のトンネルが出現するのであります。
 成城学園前駅の南口には当時国鉄のチッキを扱う窓口がありました。チッキと云うのは国鉄の乗車券を持っていれば荷物一個を到着駅まで送ってくれるサービスであります。偶さかの帰省にはこれで荷物を先に送って、ほとんど手ぶらで帰れるので大変重宝しておりました。JRになってからはもう、よくは知りませんがなくなってしまったサービスでありますかな。
 そう云えば北口のバス停の向い側にどこかの建築会社の展示住宅があって、ここでは山口百恵さんと宇津井健さん共演の「赤い迷路」と云うテレビドラマのロケが行われておりました。展示住宅でありますから普段は誰でも入れるのでありますが、拙生も一度家の中に上がりこんだことがあります。
二階のある部屋に置いてあった備品の大きな机の引き出しを何気なく開けてみたら、中に中学生のものと思しき学習参考書が数冊入れてありました。展示住宅の飾りとして机はいいとしても、その中に、しかも目立たないように参考書を入れておく必要はなかろうと考えて、俄かにはたと思ったのであります。ひょっとしてこれは撮影の合間に勉強しようと、山口百恵さんがここに置いていったものではなかろうかと。今となってはその持ち主が誰であったのかは、調べようもありませんから謎のままであります。
(続)
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