ぎゅうにゅうⅤ [ぎゅうにゅう 創作]
ぎゅうにゅうに腹を突つかれて、急に力が抜けて、拙生は身体を捩ってげらげらと笑い出してしまいました。
「こそ映ゆうして、力の入らん」
「もう一回力ば入れてみろ」
再びぎゅうにゅうに腹を突つかれて拙生は発条を一杯に巻かれた人形のように、じたばたと笑い転げるのでありました。
「ねえ、なんで、ぎゅうにゅうて云うと?」
ひとしきり笑い終えてから、一呼吸して拙生はそう聞きます。
「さあ。多分オイが牛乳ばっかい飲ませられるけんやろう。小まか頃からオイは母ちゃんに牛乳ばいつも飲まされよったっちゃん。牛乳ば飲んで、あと白かご飯ばいっぱい食べれば、少しはオイが白うなるやろうて云われて」
「牛乳ば飲むぎんた、白うなると?」
「なるもんか!」
ぎゅうにゅうが吐きすてるように云います。
「白うなった方が良かと?」
「母ちゃんはそがん云わす」
こんな美しい光沢のある黒い肌をなんで白くする必要があるのか、拙生には理解出来ないのでありました。そんな、勿体ない。
「牛乳、好いとると?」
「好かん。いっちょん、好かん!」
ぎゅうにゅうは鼻翼を挙げて顔を顰めながら云うのでありました。
「そんなら飲まんぎんたよかたい」
「母ちゃんの飲めて云わすけん、飲まんば仕方なかと。そいに・・・」
ぎゅうにゅうが拙生から目を逸らせて、遠くの、無数の針を浮かべたように波頭を煌かせている海を見ながら云います。「ひょっとしたら本当に、白うなるかも知れん」
「ばってん、白うはならんとやろう?」
「ならん。ならんばってん、なるかも、知れん」
拙生にはぎゅうにゅうがいったいなにを云おうとしているのかが、さっぱり判らないのでありました。
「それよりお前、泳ぎきるとか?」
ぎゅうにゅうが拙生を再びその大きな眼で見ながら聞きます。
「少しね」
「少して、どんくらい?」
「五メートルくらい」
「ふうん、五メートルねえ」
(続)
「こそ映ゆうして、力の入らん」
「もう一回力ば入れてみろ」
再びぎゅうにゅうに腹を突つかれて拙生は発条を一杯に巻かれた人形のように、じたばたと笑い転げるのでありました。
「ねえ、なんで、ぎゅうにゅうて云うと?」
ひとしきり笑い終えてから、一呼吸して拙生はそう聞きます。
「さあ。多分オイが牛乳ばっかい飲ませられるけんやろう。小まか頃からオイは母ちゃんに牛乳ばいつも飲まされよったっちゃん。牛乳ば飲んで、あと白かご飯ばいっぱい食べれば、少しはオイが白うなるやろうて云われて」
「牛乳ば飲むぎんた、白うなると?」
「なるもんか!」
ぎゅうにゅうが吐きすてるように云います。
「白うなった方が良かと?」
「母ちゃんはそがん云わす」
こんな美しい光沢のある黒い肌をなんで白くする必要があるのか、拙生には理解出来ないのでありました。そんな、勿体ない。
「牛乳、好いとると?」
「好かん。いっちょん、好かん!」
ぎゅうにゅうは鼻翼を挙げて顔を顰めながら云うのでありました。
「そんなら飲まんぎんたよかたい」
「母ちゃんの飲めて云わすけん、飲まんば仕方なかと。そいに・・・」
ぎゅうにゅうが拙生から目を逸らせて、遠くの、無数の針を浮かべたように波頭を煌かせている海を見ながら云います。「ひょっとしたら本当に、白うなるかも知れん」
「ばってん、白うはならんとやろう?」
「ならん。ならんばってん、なるかも、知れん」
拙生にはぎゅうにゅうがいったいなにを云おうとしているのかが、さっぱり判らないのでありました。
「それよりお前、泳ぎきるとか?」
ぎゅうにゅうが拙生を再びその大きな眼で見ながら聞きます。
「少しね」
「少して、どんくらい?」
「五メートルくらい」
「ふうん、五メートルねえ」
(続)
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