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館長先生のことなど [合気道の事など 1 雑文]

 合気道養神館初代館長塩田剛三先生は実に洒脱で、為さること総てが小気味のよい後味の方でいらっしゃいました。飄然とした態度と周りへの細かい気遣い、くだけた話しっぷりと話題の転換の素早さ、天真爛漫な大笑いとその後のどこかどすの利いた眦の凄さ、接しているとその尽きぬ魅力に圧倒されてしまうのであります。
 館長先生はいつも深々と礼をされるのでこちらの方がどぎまぎしてしまいます。慌ててもっと深く頭を下げてその頭を起こすと、すでに目の前には居られずに、袴の前紐に両手の親指をかけたいつものお姿で少し前のめりにすたすたと先を歩かれています。
 そう云えば館長先生が道場を歩かれると、道場全体が振動するのであります。正座している脛にその揺れを感じて、無為に歩かれているように見えるけれど、館長先生の一歩がいかに重いかを実感するのでありました。しかも歩調でその振幅を増幅しておられるように、我が脛に感じる揺れは次第に大きくなってくるのであります。合気道では相手と一体となる、と云うような表現がよく使われるのですが、館長先生は道場という無機的な構築物とまでも一体になることが出来る方なのだと、愚かな頭で考えて妙に納得しながら座っていた記憶があります。
 警視庁機動隊専修生の入所歓迎等、折にふれて宴会がよく小金井の道場であったのでありますが、宴も最後の方に差し掛かると決まって、養神館前館長で当時警視庁師範でいらした井上強一先生が「桃太郎」を唄われ、それに合わせて館長先生が踊られるのでありました。この唄の中に、後ろから来るやつぁ呼吸投げ、前からくるやつぁ入り身突き、とか云うフレーズがありますが、当時内弟子だった山梨養神館館長の竹野高文先生、合気道錬身会最高師範の千田務先生辺りが、唄に合わせて館長先生に突進し、それを館長先生が切れ味鋭く投げ飛ばすと云う、かなり強烈な余興をしばし見せていただきました。
 稽古後に居酒屋で数名屯しているところへ館長先生が急に顔を出されたことがあります。館長先生は我々の居る小部屋に上がられ、上座に胡坐をかいて座られます。いつもはほとんど正座されるのでありますが、寛いでいる我々のことを気遣ってわざと胡坐をかかれたのでした。館長先生は大いに語られ大いに寛がれている様子でありました。最後の締めにおにぎりを食ったのでありますが、館長先生は話しに夢中と云った風情で食いかけのおにぎりを床において技について語られ、語り終わったらまたそのおにぎりをとってなんの躊躇いもなく口にもっていかれるのでありました。
 稽古時の怖い印象や技に対する厳しい姿勢、それと相反する宴席などでのお茶目な物腰、懐かしい館長先生の思い出がふとした折に、このところよく頭の中に浮かんできます。
(了)
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